omosiroi 本

omosiroi 本

ここでは、日本語で書かれた読んで楽しい面白い本をご紹介します。

了巷説百物語

了巷説百物語おわりのこうせつひゃくものがたり 京極夏彦(著)  角川書店 (2024年6月19日刊行)

稲荷藤兵衛とうか とうべえ(狐猟師・洞観屋どうかんや
 ━━嘘を見破る男。
  「唵嚕鶏入縛羅紇哩おんろけいじばらきり」と唱え、手刀で空を切る。
  狐窓を作り、そこから覘く。「嘘」を見極める。

✽登場人物たち…
猫絵のお玉、猿猴ましらの源助、四ッ珠の徳次郎、山猫廻しのおぎん、
小又潜りの又市、横川よかわのおりょう骸操むくろあやつりの柳次、削掛けずりかけの林蔵、
事触れの治平、祭文語りの文作、御燈みあかしの小右衛門 etc.

藤兵衛は裏の渡世ー洞観屋ーで受けた仕事のため、江戸へと赴く。
化け物遣い等と出会い、いくつかの謎を共に解き明かしていく。
陰陽師・中禪寺洲齋ちゅうぜんじ じゅうさい が依頼された商家の憑き物落とし。
「七福連」を名乗る者らとの闘いが終盤に待っている。

個性的な人物たちが繰り広げる世界。
1152頁も「あっ」という間に読み切れてしまいます。

かつてはともに過ごした仲間であった七福連の一人に、林蔵が言います。
「この世の中もいいだけ腐っとるのやろ。
 せやけどな、わっしも又市も、この腐った世の中が大好きやねん」
同じ様な境遇で育ってきたが、今こうして敵対して命のやり取りをするなかで、
林蔵が “恵比壽” (蛭子の善治)にこう言ったのです。

「血がつながっているとか、━━ そんなことは本当にどうでもいい
 ことですよ。人は細い縁で繋がっているだけです」(中禪寺洲齋)
児童がきはな大事にしなきゃいけねえよ」(事触れの治平)
この言葉が忘れられずに、後に藤兵衛がある行動に移るのです。

こういう物語を読んでいると、勝手に映像化してしまうことはありませんか。
藤兵衛をやる役者はだれか、と考えながら読んでいました。
藤兵衛は50歳ほどということですが、
《緒形拳》さんがまず浮かび、《藤田まこと》さんもいいな、と。
叶わぬ配役ですが、こんなことを思い描きながら読むのも楽しいです。

『了巷説百物語』は、
【巷説百物語】シリーズのラストを飾る作品です。(刊行年)
1、巷説百物語   (1999)
2、ぞく巷説百物語  (2001)
3、のちの巷説百物語  (2003)
4、さきの巷説百物語  (2007)
5、西にしの巷説百物語  (2010)
6、とおくの巷説百物語 (2021)
7、おわりの巷説百物語 (2024)

✽ 物語の「戌亥乃章・於菊蟲」にて、
   ”皿屋敷” 青山家の荒屋敷が舞台となっています。
  この章に登場する “菊” “静” “三平” の物語は、
  『数えずの井戸』(京極夏彦・著 中央公論新社 2010年1月 刊行)で語られています。
  この作品もまた、良いです。
  なんとも哀しい物語ですが、絶対に読むべきです。

✽ 武蔵晴明社の中禪寺洲齋については、 
『狐花 葉不見冥府路行はもみずにあのよのみちゆき(京極夏彦・著 角川書店 2024年7月 刊行)で活躍中です。

✽ シリーズ4作目「前巷説百物語」に登場する 久瀬棠庵くぜとうあん さんは、
 ここでは、老人(50代のようです)ですが、
 『病葉草紙』(京極夏彦・著 文藝春秋社 2024年8月 刊行)では、
 20歳ほどで骨と皮状態の若者として登場しています。
 事件解決の肝は、「虫ですね」、です。

狐花 葉不見冥府路行

狐花きつねばな 葉不見冥府路行はもみずにあのよのみちゆき  
            京極夏彦(著)  角川書店 (2024年7月26日 刊行)

中禪寺洲齋ちゅうぜんじ じゅうさい (中野村武蔵晴明社 宮守 憑き物落とし・拝み屋)

モチーフになっているのが、曼珠沙華
 死人花・墓花・彼岸花・蛇花・幽霊花・火事花・地獄花・捨子花・狐花

上月監物こうづきけんもつ(作事奉行)の娘・雪乃が、墓で見かけた男に思いを寄せる。
同じく墓でその男を見た、雪乃付きの女中・お葉は、その日から具合が悪くなる。

「淡い薄色の地に、鮮やかな韓紅花の墓花が染付けられている」着物。
その着物を着ている萩之介に、雪乃は思いをよせている。

監物と懇意である商人がいる。それぞれの2人の娘たちは、
その萩之介は、「死んでいる」と知っている。
なぜなら、「殺したから」です。
お葉も、その殺人に関与しているのです。

物語は、各章の花の名前に因んだ展開をみせていく。
どの花の名も「曼殊沙華」のこと。
この花は、まず茎がすっーと伸びて蕾をつけます。そして、優美な花が開く。
花が枯れた後に、葉が茂ってくるのです。(結構長い間、青々とした葉が茂ります)
━━葉は花を、花は葉を知らぬ。美しいが不吉は花、そして毒もある。

「恋しくは 尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森のうらみ 葛の葉」
  これは、狐・葛の葉が遺したとされる歌です。
「葛の葉」とは、
室町時代に作られた安倍晴明出生説話に出てくる白狐で、晴明の母とされる。
他に、「葛の葉狐」・「信太妻」・「信太妻」などとも言われる。
この人物に「葛の葉」と名が付けられたのは、 
1699年の歌舞伎「しのだづま」以降のこと。

この作品「狐花 葉不見冥府路行」は、
歌舞伎舞台化のための書き下ろし作品です。

「葛の葉」についての話の一つとしては、
「大阪・和泉市 信太の森。この森に住むキツネが狩人に襲われていたところを
 安倍晴明の父・保名が助ける。が、その際にけがをした。葛の葉という女性が
 現れ介抱し、送り届けた。その後、妻となった葛の葉は晴明を産んだが、正体
 がばれ、森に帰った」

『了巷説百物語』中に、「辰巳乃章・葛乃葉」があります。
 もちろん、中禪寺も登場人物の一人です。

さて、物語ですが、
過去に犯した罪がどんな形で償わされていくのか。
上月監物、近江屋源兵衛、辰巳屋棠蔵、的場佐平次、
近江屋の娘・登紀、辰巳屋の娘・実祢。

萩之介は、”幽霊” なのか。
幽霊については、中禪寺洲齋が作中で語っています。

中禪寺が語る過去の話。
それは、とても哀しい。本当に悲しい。
この物語でも、また多くの人たちが逝ってしまいます。

✽作事奉行
 作事奉行とは、建物の建築・修理を司る役職。
 上月監物は作事奉行として登場。近江屋は材木問屋。辰巳屋は口入屋。
 と、三者共に利益が共用される仕組みでした。
 この作事奉行を難なく全うした後は、大目付、町奉行、勘定奉行などに昇進。

 中禪寺は、この度の件について南町奉行を通じ、大目付に書面を届ける。
 歴代の作事奉行には、遠山景元(天保8年 1837年)がいる。
 ご存じ “遠山の金さん” 遠山金四郎のことです。
 「了巷説百物語」中にも、”遠山金四郎” は登場しています。
 天保11年頃の物語ですが、作中で北町奉行の後に南町奉行になります。
 ”金さん” と言えば、片肌脱いでの「桜吹雪」ですが、
 「了巷説百物語」中では、「文を咥えた女の生首」が二の腕にあります。
 















 






















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